横綱を狙う若牛同士の闘い。期待通りの素晴らしい内容でした。闘牛場には
余韻が残っています。次は一転して、高齢の牛同士の取組。人間で言うと、
六十代と七十代の対戦です。しかし、牛と人間の年齢は、仮に同程度でも、
圧倒的に牛の方が若々しいです。衰えを感じさせず、経験が物を言います。
まさに横綱同士の一戦でした。結び前。堂々と組み合ったベテランの姿を。
第十二回:柿乃花ゴールド(十五歳/岩手)-彦内(十三歳/山古志)
先に彦内が入りました。のっそりのっそり歩いています。
この場所に来たら何をするか、もう解りきっているのでしょう。
「さぁて、今日も一仕事するか。」そんな気分だったのかもしれません。
若い勢子に引かれて、反発するでもなく淡々と、相手の入場を待ちます。
そして柿乃花ゴールドがやってきました。こちらも横綱の貫禄。
慌てず騒がず、でも連れてきた勢子の周りをぐるぐる回るような素振り。
はやる気持ちはあれど、横綱のプライドがそれを前面に出させない感じ。
さきほどの一番とは変わり、これはベテラン同士の闘いになります。
そしてこの両牛、山古志の角突きを支えてきてくれた素晴らしい牛です。
年齢は確かに高いけど、体の張りなどを見ると、とてもそうは見えません。
黒牛が柿乃花ゴールド、赤牛は彦内です。
勢子に引かれて中央にやってきました。相手を見て、頭を合わせます。
勢子が声を出します。
場内の堂々とした振る舞いは、とても高齢の牛とは思えません。
まずは双方ベテランらしく、相手の出方を伺っています。
彦内は前の方に曲がった角で、柿乃花ゴールドの目の付近を狙っています。
柿乃花ゴールドはこれを掻い潜り、得意である掛け技から仕掛けたい。
しかし、彦内はそのチャンスを与えません。
柿乃花ゴールド、右角で掛けます。利き角のない、珍しい牛です。
右、左どちらも使う牛なのです。
この掛け技に対して、彦内は目の付近を狙う。老獪な角突きを見せます。
今度は左角で掛ける柿乃花ゴールド。「はいはいはい!」気合を入れます。
勢子の声がいっそう大きくなりました。
そして。
なんと場内に、一目で年配とわかる男性が入ってきました。
勢子として参加します。現役の勢子からしたら、大先輩にあたるそうです。
この飛び込み勢子さん、気合が入ってます。
大きな声を出し、勢子の体を叩いて盛り上げます。動きも機敏です。
闘っている牛がベテランなら、勢子もベテランが頑張る、そんな闘牛場。
現役の勢子も負けられません。声を出し、ずっと両牛を鼓舞しています。
柿乃花ゴールド、右角で掛ける、その次は左角で掛けようとする!
彦内は曲がった角を使って、柿乃花ゴールドの目元や額に角を当てます。
「自分の持ち味を見せつつ、如何に力を最小限に抑えて最大の仕事ができるか」
双方がこんなことを考えているようにも見える、ベテラン同士による闘い。
彦内の右角の根元は、これまでの闘いによる古傷が開いています。
つまり出血しています。
柿乃花ゴールドの攻撃はとても凄くて、容赦をしないところがあります。
薬師大力との一戦でもそうでした。
そういう場所を見つけるのでしょうか、徹底的に攻撃を加えます。
彦内の古傷は、これまでにも何度か出血しています。
これを見ていると、ブッチャーのおでこを連想して凄みさえ感じるのです。
彦内は全く痛がる素振りを見せません。柿乃花ゴールドに向かって行きます。
柿乃花ゴールドは左右の角を使い、掛け技から攻めようとします。
ピシッ、ピシッ。勢子が気合を入れます。
派手な動きはないものの、力が入っているのは解ります。
柿乃花ゴールドが掛け技で攻めます。
しかし彦内はそれを受け止め、外れた瞬間に飛び込む。お手本のような動き。
今度は右角で、そして次は左で掛けて出る柿乃花ゴールド。
「負けんなほら!」勢子の声。客席からも「ほらがんばれ!」の声が飛ぶ。
時間いっぱいになると、勢子がサッと鼻を取りました。ここは攻防なし。
これもベテランの凄さです。
激しい闘いを繰り広げた両牛ですが、勢子が動くともう解っています。
「今日の自分の仕事はここまで。」とても潔いです。そして離れる。
そんな両牛に、大きな拍手が送られました。
柿乃花ゴールド、彦内の順に引き上げ。どちらも悠然と歩いてました。
※記事作成にあたり 、MC勢子・松田さんの解説を参考にしています。
↑左の柿乃花ゴールドは十五歳。彦内は十三歳です。ベテラン同士の闘い。
↑開始直後、真っ向から頭を合わせる両牛。がっぷり組んだ睨み合いです。 ↑双方の角の形がこれまた興味深いです。それをよく理解して使うのです。 ↑低く構える柿乃花ゴールド。彦内は睨みを利かせています。緊迫の一瞬。 ↑左角で一発。柿乃花ゴールドは掛け技が得意。彦内の表情も変わります。 ↑彦内は、前方に曲がった角で柿乃花ゴールドの目元付近を狙いたい。 ↑これは強烈!柿乃花ゴールドの右角が、彦内の体に突き刺さっています。 ↑彦内も負けじと右角で攻撃。しかし、柿乃花ゴールドは悠然と佇みます。 ↑このあたりから、彦内の右角の付け根は赤く染まります。でも諦めない。 ↑柿乃花ゴールドはさすが横綱。容赦せず、彦内の右角を狙っていきます。 ↑左角が赤くなった柿乃花ゴールド。彦内はそれを見てさらに気合が入る。