手応えは、それまで全くない。浜松史上最大のボツが確定してしまった。
気持ちが切れる、というのはこんなことを言うのだろう。
仕方ない最後にもう一度トラを見ていくか、そう思って立ち寄ってみた。
運動場にはお母さんトラが出ていた。ちょっと足を引きずっているみたい。
そろそろと歩いていたのだが、そのうち草の生えている場所に座り込んだ。
これで万事休す。撮れないなと感じたのだが、念のためレンズを向けてみた。
マイクロフォーサーズのルミックスGX7を使ったので、500mmレンズを
装着したら換算焦点距離は1000mmになる。さらに、この組み合わせでは
スクエア画面で撮ると決めているので、必然的に周囲がカットされることに。
それが意外にまとまっていた。これなら、顔の位置が変われば形になる。
当初のファインダー上では、トラの顔をやや斜めに狙える構図であった。
つまり、画面の左側約20%が空間である。ここに、草が写り込んでいた。
画面からこの草を消すには、トラの顔で隠すしか方法がない。
故に、あとは首の角度が上向きになるまで待つしかなかったのである。
そして、もしもそういうタイミングがやってきたら、押さえられると思った。
しばらく待っていたら、どこからともなく馬の足音が聞こえてきた。
何があってもトラの顔、ファインダーから視線を逸らすまいと思っていたので
後ろで何が起きているのかはさっぱりわからなかったのだが、どうやら馬を
連れて飼育員さんが歩いていたらしい。そして、これにトラが反応したのだ。
音が聞こえてくるほうに視線を向け、目で追い始めた。それをずっと見ていて
馬と自らの体が重なったときが唯一のチャンスだと決めた。そしてその通りに。
この写真、カメラのほうを向いているように見える。
だが実際は、そのすぐ上の位置を通り過ぎようとしている馬を眺めているのだ。
これこそが、唯一にして最大のラストチャンスであった。
AB (GX7/FD500mmf4.5L)