記憶を辿るカメラ散歩

ずっと東京で暮らしているが、生まれたのは神奈川県。横須賀共済病院である。
ここは母方の実家から近いので、朧げな記憶ながら、建物を見上げて「ここか」
などと思っていた。正月などは当然のように行っていたから、まるで景色の違う
横須賀は新鮮な場所である。そして、行くと必ず出かける散歩コースがあった。

共済病院の建物のすぐ脇から坂道を上り、そのまま寺のような場所でハトに餌を
あげる。階段を降りてしばらく歩き、博物館に寄って帰るというルート。何度も
通ったとても好きな道であり、ちゃんと覚えている。付き合ってくれたのは母か
親戚のお姉さん(といっても当時小学校5年くらいだった)。建物の名前などは、
全く記憶していない。でも、見たもの感じたものがとにかく楽しかった。坂道の
左側には崖があり、たくさんの防空壕があった。この中に入って探検したいよ、
そんなことを言って叱られていたっけ。いつしかそれは記憶の中だけの出来事に
なってしまい、時々思い出すことはあれどすっかり忘れ去られていたのである。

ところが。ここ最近カメラを持って散歩に行く機会が増えてきた。だとしたら、
その原点ともいえるこのコースをまた歩いてみたい、そう考えるようになった。
そんなわけで、何年ぶりかで横須賀中央駅の改札を通った。駅は大きく変わり、
この段階でかなり驚いたのだが、ホームからすぐ見えるトンネルや、駅前にある
鉄橋はそのままだった。中学生の頃にカタログをたくさんもらい、ウィンドウの
カメラを眺めていた店はなくなっていた。さして道に迷うこともなく母の実家に
着いたのだが、病院が驚くほど大きくなっていたのにはビックリである。しかし
坂の入り口は当時のままで、すぐに歩き始めることができた。期待しなかったが
案の定、防空壕は1つたりとも残っていなかった。家が建っている。とはいえ、
何となく残っている崖や石壁に当時の風景が重なった。かつては寺としか認識を
していなかったが、そこにはちゃんと龍本寺という名前があった。境内には誰も
見当たらず寂しい雰囲気だった。餌も売られていないし、ハトは1羽もいない。
階段を下ると、よくそこで菓子をせがんだ商店が見えた。ただし、シャッターは
降りている。自動販売機でミルクコーヒーを購入した。次はいよいよ博物館だ。

ただの博物館ではなく、ここの名称は横須賀市自然・人文博物館という。ただし
人文部門が移転してきたのは昭和58年なので、当時は横須賀博物館と呼ばれて
いたようだ。中に入ると、記憶が次々と蘇ってきた。それまで水族館は知らず、
この博物館にある標本だけが海の世界だった。見るたびにワクワクしたものだ。
標本はかなり古くて、今の子供たちに大きな感動は与えられないかもしれない。
それでも、子供の頃を思い出して感慨深いものがあった。その後は付近の公園を
散策して戻った。まさにタイムスリップ。犬の散歩をさせている人が数人いたが
とても静かな環境だった。博物館は完全貸切。また機会を作って行ってみたい。
記憶を辿るカメラ散歩_b0016600_21233935.jpg

AB− (E-P1/FD500mmf4.5L)
by keiji_takayama | 2012-05-09 21:24 | 金沢動物園 | Comments(0)

いつもは中古カメラ店でカメラやレンズを売ってます。休日になると、望遠レンズを担いで各地の動物園や闘牛場で撮影活動。動物たちの表情を追い続け20年が経過しました。旅行会社で撮影ツアー講師を務めています。


by keiji_takayama
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